SESの引き抜きはトラブルの要因?メリットからリスクまで全て徹底解説!
SESなどの客先常駐で仕事をしていると噂レベルで耳に入るのは「引き抜き」という言葉です。
引き抜きはキャリアアップやよりも更に良い環境で仕事ができるかもしれないチャンスが突然舞い込んできますが、それがトラブルの要因にもなり得ます。
そこで今回は引き抜きのメリットやどのようなトラブルが発生するのか?そして、最後に引き抜き以外の別の選択肢についてもお話ししていきます。
そもそもSESで引き抜きは実在するのか?
まずは、そもそも引き抜き自体がドラマや噂レベルでしか聞いたことが無い方が多いかもしれませんがあり得るのか気になりますよね?
結論として、引き抜きは意外と発生しています。
結果的に引き抜きを受け入れる人が少なかったりするのでたまにしか起こっていないイメージですが、軽い引き抜きの話程度であればよく起こっています。
ですがよく起こっていると言ってもこれは個人差があり、起こる人にはよく起こり、縁のない人は定年まで全く縁がないことさえあります。
実際に私もSEとして活動していて、相手ベンダーやクライアントと普段の会話や接待などで、
ということを言われたり、言われている人を見たことがあります。
ここで冗談交じりではなく前向きに考えてみると引き抜きされやすく、私が働いていた企業でも上司が客先の企業に転職をするというのが約3年間で1~2件はありました。
他の職種と比べてSESは引き抜きが起こりやすい
SESは自社開発の企業と比べて遥かに引き抜きが起こりやすい傾向があります。
これはSESの特徴を見るとなんとなく分かるかもしれませんが、SESのプラスな面だけではなくマイナスな面が引き抜きが起こりやすい理由になることもあります。
それぞれどのような理由なのかここからお話ししていきます。
常に客先常駐なので、他社との関係が密接になりやすい
自社開発の場合、クライアントとの打ち合わせや交渉といったものは基本的に上司やPMが行います。
私も自社で開発していた時は、作業指示は上司からもらい、そこで発生した疑問や問題点についてもまずは上司に相談し、それでも対応できない場合には上司からクライアントへ相談していました。
だからこそ、上司とクライアントとのやり取りはメールで「CC」として共有されているだけで直接メールや話をしたことはほとんどありませんでした。
一方、SESの場合、社内業務をすることはほとんどなく、常に客先常駐で仕事をします。さらに、客先常駐で自社の上司がいるわけではなく、相手先のベンダー企業からの指示で仕事を行います。
そのため、自社の社員以上にベンダー企業の社員と関係を築きやすく、仕事以外でもプライベートの会話もするような関係値すら容易に作れてしまうので、引き抜きが発生しやすい傾向があります。
自社に対して不満が出やすい
SESは多重請け(三次請け・四次請け)が多く、末端で働くこともよくあります。
下流に行けば行くほど年収は低くなりますので、四次請け以上ともなると月収で15万円程度だったり、残業代が全く出なかったりと労働環境に対する不満は非常に多くなります。
さらに、収入だけではなく労働時間や内容も過酷になりやすく当たり前のように残業が発生することもあります。
そのため、SES企業で働いている社員は働いている企業や自社に対して不満を持ちやすい傾向があります。
他にも、SESならではの問題で相手企業との契約は準委任契約になり、成果物の納品ではなく、一月当たりの稼働時間によって履行されます。
多くの企業は140時間~180時間の間で契約を交わしていますが、その中で有給やGWやお盆などの長期休暇が挟まってしまうと稼働時間が足りず、平日に仕事が終わっているにも関わらず無駄な残業をして埋め合わせをしなければならなかったりと「そもそも休んでいる意味があるのか?」とも思えてしまい不満が溜まってしまいます。
社員に対するサポートが無いSES企業も
今は少なくなっていますが、IT業界はうつ病を発症しやすい業界とも言われていました。
仕事が忙しかったり、上司からの理不尽な叱責やクライアントからの無理難題だったりストレスばかりかかる職業です。
私も以前働いていた企業でクライアントからの急な仕様変更や定時前に本日中と仕事を当たり前に渡される環境でストレスが極限まで到達してしまいうつ病を発症してしまいました。
結局退職をしてしまいましたが、総務や上司からのサポートもあり、復職もさほど時間はかかっていませんでした。
しかし、SESは客先常駐がメインなので、自社内の人事や総務などが本人の変化を見ることができません。
さらには、先ほど休日の話を出しましたが、有給の申請には自社だけではなく相手企業とも調整をしなければならず、なかなか休日が取れないということも珍しくはありません。
良いSES企業の場合、自社の人事担当からも交渉してもらったりと休暇が取りやすい環境をサポートしてもらえますが、ブラックなSES企業の場合はサポートすらなく投げっぱなしの状況になりやすいです。
引き抜きと勘違いされる事案も
SESは引き抜きが起こりやすいということをお話ししましたが、そもそも引き抜き以前に離職率も高い傾向にあります。
離職して別の企業に入ったが、取引先には以前働いていた企業があり、引き抜きと勘違いされるということもあり得てしまいます。
厚生労働省の雇用動向調査結果によると令和2年の情報通信業の離職率は9.2%となっていますが、これは業界全体の数値なのでSES企業になるとこれ以上高くなる可能性もあります。
さらに、この統計は1年単位の統計になっていますが、システム業界では3年近くで退職する人が多く、こちらも厚生労働省が発表した「入社から3年以内での離職率」が公表されていますが、約3割~5割とかなり高い傾向になっています。
別の業界に行く場合はあまり関係ないですが、同じ業界で以前の企業と取引があった場合には偏見や良くない噂が立つこともあります。
根回しをすることも重要
引き抜き以外でも相手先の企業に転職やフリーランスとして個人契約を交わすということはIT業界ではよくあることです。
しかし引き抜きで勘違いされてしまうとこの後にもお話ししますが、個人の関係だけではなく企業間の関係にも影響を及ぼす恐れがあります。
それを防ぐために、色々と根回しをしておくと偏見や良くない噂が立ちにくくなります。
根回しは関係を切らずにその関係を継続させるための手法になるので、将来的にも役に立ちますのでできる限り行うようにしましょう。
引き抜きのメリット(自分目線の場合)
ここからは、引き抜きのメリットについてお話ししていきますが、これは自分自身と相手企業側でそれぞれメリットがあります。
自分にしかメリットが無いと思ってしまいますが、相手も大きなメリットがあるので引き抜きが行われます。
まず自分自身のメリットとしては、自分の技術力が正当に評価されたり、自分のキャリアアップが早まったりするメリットがありますが、他にはどのようなメリットがあるのかをお話ししていきます。
収入や待遇が良くなる可能性がある
一般的には、入社したての場合、「とりあえず」案件にアサインする、「とりあえず」給料も相場程度に調整されることが多いです。
そこから正当に評価されれば昇給や昇格といったキャリアアップができますが、一般社員の昇給なんてたかが知れています。
私の場合、新卒で入って数年間、1年あたりの昇給は1,000円程度で手取りで「変わった」と思うことは一度もありませんでした。
しかし、引き抜きされる場合は既に相手にも自分の技術力は伝わっているため、収入の交渉も現在のSES企業と比べて比較的高めに設定されたり、案件での立場が良くなったりする可能性があります。
コミュニケーション能力が高ければ引き抜きが起こりやすい
能力や結果だけでアピールする方法もありますが、それだけでは引き抜きされる可能性はかなり低いです。
引き抜きされる人の特徴は、技術力に加えてコミュニケーション能力が高いです。
私が勤めていた企業でも社内では少し浮いていた上司がいましたが、休日などでクライアントと遊びに出かけたりとかなり密なコミュニケーションを取っていて、私がその企業に入社して2年後にはクライアントの企業への転職が決まっていました。
後からその時の話を聞くと、クライアントから「〇〇の部署が人手不足だから転職したいなら話をつけておくよ」と言われていたようです。
このように引き抜きされたいなら一定の技術能力は必要ですが、それ以上にコミュニケーションスキルは重要です。
キャリアアップをすると実務より、交渉や会議といったコミュニケーションが増えていきます。
そのため、長期的に見てもコミュニケーションスキルは技術力以上に重要な能力になります。
人間関係でのストレスが減少する
SESは定期的に案件が変わりますが、当然仕事場所やベンダー、社員も変化します。
今まで培ってきた関係が断たれ、また新しい社員と関係を構築しなければならないというのは意外とストレスがかかります。
全くコミュニケーションを取らないという選択肢もありますが、そうなると仕事上のやり取りに対してストレスが発生してしまうので本末転倒です。
打ち合わせや会議でも自分の意見を通しづらかったり、不明点などがあっても質問をしづらかったりと本来の仕事にも支障が出てしまう可能性すらあります。
ここで引き抜きによってSES以外の会社に入った場合、今まで関係を構築してきたメンバーとの仕事になるので再度人間関係の構築をする手間やストレスは大幅に減少します。
案件が終了したとしても新たな案件では全員が同じ案件とは限りませんが、顔なじみはいる可能性が高いので案件が変わってもスムーズに移行しやすいです。
引き抜きのメリット(相手目線)
次に、相手目線ではどのようなメリットがあるのか解説します。
このメリットを知っていると、どのような状況の時に引き抜きが起こりやすいのかが分かり、引き抜きだけではなく良いタイミングで狙った企業への転職ができたりするので知っておいて損はないでしょう。
時間をかけてリクルートする必要が無くなる
一括りにIT企業と言っても企業数は数千~数万社とかなり多く、社名すら知らない企業ばかりです。
実際、私が働いていた企業は認知度が低く、私が入社した時には私を合わせて10名が採用されましたが、それ以降以降の新入社員は1年目はゼロ、2年目は2人、3年目は1人とかなり少なく採用担当も人材集めには苦戦しているようでした。
そのため、全国で企業説明会だったり、就職あっせんサイトに掲載をするのが一般的ですが、実はかなりのコストがかかっています。
企業説明会では交通費や出展料で数十万円~100万円程度、就職あっせんサイトに掲載するだけでも一月当たり数十万円はかかってしまいます。
これらを活用しても人材が集まらないこともあるのでかなりのコストと時間を無駄にしてしまうリスクもあります。
しかし引き抜きであれば、その人材を採用するためにかかるコストは企業説明会や就職あっせんサイトへの掲載の十分の一以下にすることも可能です。
能力がある人材を100%見分けられる
通常、採用担当者は履歴書やエントリーシートが必要な書類審査、SPIなどの適性検査、最後に面接という一連の流れでその人材の能力や性格を知らなければなりません。
直接会話をするのは面接のみで一度の面接でも長くて1時間程度、たったそれだけの時間で相手の性格や能力を見極めなければいけないので、当然ハズレと言われる人材を採用することもあり得ます。
例えば、
- 履歴書の情報が虚偽だった
- エントリーシートが偽装されていた
- 案件にはアサインされていたが雑務しかしていなかったので実力が無い
- 面接だけ頑張って社内でのコミュニケーションができない
- 何かとトラブルを持ってきてしまう
このような要素がありますが、特に履歴書やエントリーシートの内容は、相手企業が公開していない限り推測の域を出ず、結局は採用後にしか正解が分からないこともよくあります。
しかし、引き抜きの場合は、一緒に案件を進めているのでどれだけ技術力があるのか、どんな性格なのかを判断して引き抜きの交渉をしていることが多いのでハズレの人材に当たることはほとんどありません。
一方で、炎上案件などで単純に人を確保したくて引き抜きをしていることもあり、そういった場合ではハズレの社員を引いてしまうこともあります。
人海戦術をしている案件、つまり炎上案件ですが、こういった案件の引き抜きをされてもよっぽど給料が良かったりしない限りは断るようにしましょう。
お金が良くてもストレスでうつ病になったりとデメリットもあるので自分の金銭面などと相談した方が良いでしょう。
引き抜きには大きなリスクがある
これまでお話しした内容を見ると、引き抜きは双方にとってメリットしかないのではないかと思ってしまいますが、実際はかなりのリスクを伴っています。
SES企業とベンダー企業の関係が悪化する可能性がある
まず、引き抜きの最も大きなリスクは働いていたSES企業と派遣されたベンダー企業との関係が崩れてしまうリスクです。
個人間での話で引き抜きが進んでも最終的には企業間でのトラブルに発展してしまい最悪の場合、今後の取引が停止されてしまいかねません。
最初にもお話ししましたが、引き抜きと勘違いされてしまってもこの関係が悪化する危険性があります。
そのため、安易な気持ちで引き抜きに応じてしまうと自分だけではなく関係する企業まで想定外の損害を出してしまうリスクがあります。
このリスクを回避するために転職する前に根回しをすることがありますがその情報がどこでどのように広がるのか、ましてやその情報が悪い方向に改ざんされることさえありますので根回しでも注意しなければいけません。
今まで以上に使い回される可能性がある
先ほど出したリスクは企業間でのリスクでしたが、これは自分自身に対するリスクです。
これまで「引き抜き=双方にとって良いことばかり」という前提でお話ししてきましたが、ただ都合のいい人材が欲しいからというケースもあります。
ビジネスなので利益を出さなければいけませんが、安直に「安くて技術力がある人材」を探しているだけの場合、当の本人が引き抜きに応じてしまうと悲惨な状況になりかねません。
給料はさほど変わらないのに仕事が増えるだけという本末転倒になってしまうリスクもあります。
他にも、そういった場合には社内の人材に対しては不当な評価を付けて賞与が少なかったり、昇給幅が減少したりとデメリットもあるので注意しなければなりません。
これは実際に入って見なければ分からないことが多いです。いざ入社して、想像と違っていてもすぐに辞めてしまうとデメリットが生じるのは自分だけです。
単純に自分の経歴に傷がついてしまうだけで今後就職する際には「なぜこの企業をすぐに退職しているのか」という理由を聞かれたりと面倒になりがちです。
最悪の場合、目標としているキャリアプランから離れてしまうリスクもあり、修正に長期間かかってしまうことも考えられます。
引き抜きされる場合はしっかりと交渉をすべき!
引き抜きに対する双方のリスクについて解説してきましたが、このリスクを軽減する方法は、周りへの根回しだったり、知らず存ぜずを突き通したりと様々な方法があります。
特に最後の使い回されるリスクに関しては、雇用条件をしっかりと交渉することで解決する可能性があります。
これを蔑ろにしてしまうと引き抜きをされ、いざ契約を交わす時に契約社員としての雇用であったり、フリーランスとして個人契約を結ばなければならなかったりと自分の望んでいた契約ができない可能性もあります。
SES企業に籍を置きながら交渉をすべき
SES企業で働いている時には「早く辞めたい」と感じるかもしれませんが、一旦落ち着いてすぐに会社を退職しないようにしましょう。
これは私の経験で引き抜きとは関係ありませんが、フリーランスになりたいと思い、何も考えなくすぐに退職して仕事探しを始めましたが最初の数か月は全く収入が無い状態が続き、貯金も底をつきそうになることもありました。
すぐに会社を退職したことを後悔することも何度もありました。籍を置いていても仕事探しはでき、クライアントとの継続的な関係構築もできるのでもっと早く軌道に乗せることも可能だったでしょう。
会社員は安定的な収入があるので精神的にも余裕が出てきます。契約などの交渉事には余裕が必要不可欠です。余裕が無ければ不当な契約でも交わさざるを得ない状況に陥ってしまうことがあります。
だからこそ、自分の望む条件が決まるまでできる限りSES企業に籍を置いた状態で交渉してみましょう。
引き抜き以外の選択肢もあることを忘れないように
私が会社員として働いた時にたまに目にすることがあったのは「引き抜きされる可能性を上げるために媚びを売る」という方です。
最初にもお話ししたように、引き抜き自体かなり珍しいことで実際に発生しても契約でトラブルが発生したりする可能性もあります。
そもそも引き抜き以外にもキャリアアップの手段がいくつもあるのを知っておきましょう。
例えば、このように様々な選択肢があります。
- 社内での昇進を狙う
- 今より良い企業への転職
- フリーランスへの転向等々
引き抜きの提案が少しでもあると、選択肢が一気に縮まったように感じますが別の選択肢との比較をして自分が後悔しない選択肢を取ることが重要です。
引き抜きは面倒事を先送りにしているだけの可能性も!
キャリアアップの手段で転職やフリーランスの転向という選択肢を挙げましたが、これにはかなりの労力がかかり、その労力に見合った対価を得られないこともよくあります。
転職の場合は不採用になったり、フリーランスの場合は交渉が決裂したりすることもよくあります。
これを何度も繰り返さなければならず意外と面倒ですが、一方の引き抜きの場合は相手からの声を待つだけで簡単にキャリアアップが可能です。
しかし、ここで楽だからと言って簡単に引き抜きに応じないようにしましょう。
ここでもお話ししましたが、後から相手企業との関係性が崩れたり、望んだ契約ができなかったりと後から後悔することの方が多いのが引き抜きです。
もし引き抜きという選択肢を選ぶ場合には、どのような面倒事があるのかを先に予測し、一つずつ潰していく必要があります。
最終的に決めるのは自分自身!
これまで、SES企業での引き抜きは発生するのか、引き抜きのメリットや起こりうるリスクについてお話ししてきましたがいかがだったでしょうか?
引き抜きはリスクはありますが、自分のキャリアプランを大きく変える要因にもなり得ます。
一方で、その引き抜きによってSES企業で働いていた以上に悪い契約で合ったり、今まで以上に働き方に満足できない可能性もあります。
引き抜きで悪い状況になってしまうと、引き抜きした人に対して恨みを持ってしまいがちですが、それは人から引き抜きという選択肢を与えられただけで選んだのは自分自身です。
引き抜き自体はあまり起こることはありませんが、突然引き抜きをされる可能性すらあります。
そこで安易に提案に乗るのではなく、これまでお話ししたメリットやデメリット、引き抜きに対するリスクを考慮したうえで適切な選択ができるようにしましょう。